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神戸地方裁判所 昭和37年(タ)14号 判決 1963年11月01日

判   決

明石市

原告

O・J・S

同所

原告

R・C・S

右両名法定代理人親権者母

○○○○

右訴訟代理人弁護士

山下直次

本籍アメリカ合衆国モンタナ州

住所大阪市

被告

T・L・S

右当事者間の昭和三七年(タ)第一四号親子関係不存在確認等請求事件について、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

原告両名と被告との間に、いずれも親子関係の存在することを確認する。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告ら訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、その請求の原因として、原告両名の実母甲△△子は日本の国籍を有する者、訴外C・W・J・Jはアメリカ合衆国ミズリー州に本籍を有する者であるが、右○○と同訴外人は、昭和二七年三月一七日婚姻し、東京都中央区長にその届出をなし、爾来東京、大阪などにおいて夫婦生活を営んでいたところ、同人は昭和三一年八月二〇日単身帰国し、爾後没交渉に過ぎた。

そこで右○○は昭和三六年五月一〇日神戸地方裁判所において、同女と同訴外人とを離婚する、との判決を受け、同年七月二二日右判決は確定した。

ところで、同女は昭和三三年一〇月頃からアメリカ合衆国の国籍を有する被告と同棲し、両名の間に原告O・J・S(昭和三四年一〇月一六日生)と原告P・C・S(昭和三六年九月二七日生)をもうけた。そうして被告と同女は昭和三七年一月二四日神戸市生田区長に婚姻の届出をした。

そうすると、原告両名は、法理上いずれも日本の国籍を有すべきものなるところ、民法第七七二条第一項第二項により右○○が、前記訴外人と婚姻中に懐胎した子で、いずれも両訴外人の子ということになるが、原告両名と同人との間には親子関係は存在せず、かえつて被告との間に真実の親子関係が存在するから、これが確認を求めるため本訴に及んだと陳述し、立証(省略)同第三号証の一、二を提出し、証人畑博行の証言並びに原告ら法定代理人○○○○、被告の各本人尋問の結果を援用した。

被告は、「原告らの請求を棄却する。」との判決を求め、答弁として、原告らの請求原因事実は総て認めると陳述した。

当裁判所は職権で神戸大学に調査の嘱託をした。

理由

まず、本件につきわが国の裁判所に裁判管轄権が存するか否かについて考えるに、わが国にはこの点に関する成文の法規は見当らないが、当事者が国籍を異にしても、当事者双方いずれも日本国内に住所を有するときは、わが国の裁判所にその裁判管轄権を認めるのが条理に合致するものと謂うべきである。

けだし、親子関係存在確認訴訟の特質並びに裁判における事実確定の適正を期する趣旨からして、当事者双方住所の存する国の裁判所にその管轄権を認めるのが合理的であり、且つ被告が外国人たることを理由としてわが国の裁判所の裁判管轄権を否定すべき国内法上及び国際法上の根拠もないからである。

而して法理上原告両名が日本国籍を有することは明らかなところ原告両名法定代理人、被告の各本人尋問の結果によれば、被告はアメリカ合衆国モンタナ州に本籍を有するものであり、原告両名被告共日本国内の肩書地に住所を有していることが認められるから、本件については、わが国の裁判所に裁判管轄権があるものと謂わねばならない。

次ぎに本件親子関係存在確認の準拠法について考察するのに、本件についてはその性質上認知に関する規定を準用すべきところ、法例第一八条第八条を合わせ考えると、その要件、方式ともに被告の本国法たる米国法によるべきことになるが、米国衝突法(Restatement of the Law of Conflict of Laws,§140)上親子関係存在確認当時における父たるべき者の住所地(Domicile)法によるべきものとされている。してみると、前段認定事実に徴すれば、米国法は被告の住所地たる日本法に反致していることになるから、本件の準拠法はわが国法であると解すべきである。

そこで按ずるに、(証拠―省略)を総合すると、原告ら主張の請求原因事実は総て認められ、この認定に反する証拠はない。

ところで、本件の如き場合において、米国ミズーリ州法上、原告両名が前記訴外人の嫡出子であるとされることは万一にもなく、且ついやしくも原告両名と同訴外人との間の親子関係を否定し、原告両名と被告との間に真実の親子関係の存在する事実が認められる以上、嫡出子否認の手続を経るまでもなく、その存在を確定することは許されると解するのが相当である。

よつて原告らの本訴請求は正当としてこれを認容し、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

神戸地方裁判所第五民事部

裁判長裁判官 関     護

裁判官 奥 村 長  生

裁判官 磯 辺    衛

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